THE INTERVIEWS

質問ありがとうございます。端的に言って「ウェブは我々の不満を解消すべく進化し続ける」と思います。

ウェブの影響

ウェブの基本的な効果を確認しておくと、
・通信コストの低減[トマス・マローン著『フューチャー・オブ・ワーク』]
・情報処理コストの低減[池田信夫著『過剰と破壊の経済学』]
が挙げられます。

その二つの効果は、
・個人の情報発信力の強化
となり、ひいては、
・情報発信コストの低下(無料情報の爆発)
・権力構造の解体や脱集中化
などを引き起こしています。

権力構造への圧力は凄まじく、国家については
・ウィキ・リークス
・ジャスミン革命
・オープン・ガバメント(Gov 2.0、事業仕分けのネット生放送)
といった形で、産業においては
・業界構造の再編(代理店の中抜き、異業種参入)
といった形で変化を生み出しています。

個人の生活にも浸透しています。
・クックパッド(料理)
・食べログ(外食)
・ナビタイム、グーグルマップ(外出)
・ウェザーニュース(天気情報)
・Facebook、mixi、Twitter、メール(社交、連絡)
といった具合に私達の生活の様々な場面でウェブは価値を提供しています。

ウェブの進化の軌道

さて、今後のウェブはどうなっていくのでしょうか。歴史を振り返ってみましょう。アラン・ケイ、ヴァネヴァー・ブッシュ、ダグラス・エンゲルバート、アラン・ケイといった初期のコンピュータ科学者たちは、コンピュータが「考えるための機械」として人間に奉仕する未来を構想していました。それは現実になりました。その先に何があるのでしょう。

ダグラス・エンゲルバートはコンピューティングを「人間能力の拡張 (human augmentation) 」と捉えていました。ワードプロセッサは人間の作文能力を拡張し、スプレッドシートは人間の計算能力を、メールは文書を届ける能力を、検索エンジンは知識を探して獲得する能力を、オンラインショップは移動せずに買い物する能力を拡張します。引き続きコンピューティングは人間能力を拡張し続けるのだろうと思います。ではどんな風に拡張していくのでしょうか。

ヘンリー・ペトロスキーは、あらゆる人工物(当然ウェブもそこに含まれる)の進化が「不満の解消」という動機に駆動されていると論じました[著書『フォークの歯はなぜ四本になったか』]。では、どのような不満(問題)ほど早く解消されていくのでしょうか。開発者にとって「解消する動機」の強い不満から、ということになるでしょう。次の項目に該当する不満ほど、早急に解消される傾向にあるのではないでしょうか。
・発見の容易な不満
・解決の容易な不満
・多くの人が共通して抱える不満
・その不満を解消することで開発者にもたらされる利益が大きい不満

まとめると「ウェブは我々の不満を解消すべく進化し続ける」ということです。その際に、開発者としては「人間能力の拡張」という想像力を用いることができます。

あとがき

「ウェブにはどんな可能性がありますか?」という質問に、もっと具体的な回答をする人もいるでしょう。例えば「ウェブは人々をつなげることで、不安を減らし、社会が豊かになる」といった具合に。私はそのような想像について確信を持って語れるほど、未来を見通せるとは思っていません。なんとなく考えていることなら語れるかもしれませんが、この記事は十分に長くなってしまいましたので、終わりにします。また機会があれば。

補遺

日本語では「進化(evolution)」と「進歩(英語のprogress)」が混同されがちです。前述の「人工物の進化」は、ダーウィニズム的「進化」の妥当なアナロジーです。リチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子』のなかで「ミーム(meme)」ー文化的遺伝子とも訳されますーというアイデアを提示しました。生物の遺伝子が自己複製するメカニズムの結果として「進化」と呼ばれる現象が起こることを解説する本です。そのなかで彼は人工物も「進化」していると論じたのです。私はそのアイデアを採用します。では、人工物の形態を決定する「文化的遺伝子」は、どのようなメカニズムで進化するのでしょうか。

生物の遺伝子は「環境への適応度が高い個体ほど生存確率が高まる」というメカニズムで「進化」します。人工物の文化的遺伝子は「人間にとっての満足が高いものほど生存確率が高まる」と言えます。言い換えると、人工物は「人間の不満を解消する」ように進化すると考えられます。例えばフォークの歯の数を決定する文化的遺伝子としては、圧倒的に「四本」の遺伝子が優勢であり、そうなるまでには様々な「不満」が解消されてきました。これについてはペトロスキーが前掲書のなかで検討しています。

2011-09-01 10:08:24